Refused Reality(元・現実を拒絶した夢の中)
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注意
・完全捏造設定です!
・原作かなり無視しています!
・オリジナルキャラクターがわんさか出ます
・二次創作だということをご理解したうえでお読みください!
以上、同意できる方のみ↓へ・・・
今でこそ思い出として語れるが、当時はその日を生きるだけで精一杯だった。
天人の軍勢が集落を、村を、どんどんと侵略し略奪しペンペン草も生えないほどに荒らしていく。
人心は荒れ、田畑を耕す気力さえも失い、ただ、死による安寧を望む者さえいた。
集落を治めていた父。集落の者達から慕われていた母。若様と呼ばれていた自分。
天人はそれらすべてを奪い去り、己1人がその集落に残された。
頼れる親戚は江戸にいるが、子どもの足でこの戦乱続く世に旅をするなどとんでもないことだった。
わずかに残る食料と水。それらで命を長らえさせながらも、なぜ自分は生きているのだろうと自問する。
徐々に蓄えは無くなり、腹が減れば草の根すらも口にし、喉が乾けば雨水を溜めた碗を乾す。いっそ死ねれば楽だろうにと思いながらも“生”にしがみつくのを止められない。
“あの人”達に会ったのはそんな生活を始めて一月ほどたったころだった。
「・・・酷いものだ」
集落の跡地を見まわし溜息をつく彼。まだ、元服して数年という年頃だろうか、丸みが残る顔立ちには疲れが見えていた。
「どこに行ってもこの有様・・・奴等を追いかけるだけではダメだな。先回りをして狙われそうな集落を防衛するという方法に変えよう」
「だな~・・・と言っても、幕府もだいぶ腰が引けてるらしいからな~。それに見てよ、この長巻・・・ぼろっぼろ」
「磨ぐ暇なんてねェからな」
「ホント~、最近なんて斬るじゃなくて叩くって感じだもん。後は突き刺すとか。痛いと思うよ~コレ。切れ味悪いから余計に」
「文句言ってる場合か。そろそろ行くぞ・・・本隊から連絡のある経由地まではまだまだ遠いんだからな」
「わ~ってるって・・・先輩達にどやされるのも勘弁願いたいし」
ワイワイと話している少年達の目には気力がみなぎり、まだ諦めていないということがわかった。
だが、噂に聞く限りでは“攘夷志士”も立場が危ういらしく天人と同じように略奪に走る者達もいるらしい。もう何も失うものはないが、戯れに殺されないとも限らない。
息を潜めて隠れていると、不意にキラキラとしたものが目に映った。
「生きてる・・・?」
それは話しかけてきた少年の髪だった。珍しい銀髪、血の色に似た赤い瞳、息を詰まらせてそれを見ていたが、少年が手を伸ばしてきた瞬間にその手を薙ぎ払っていた。
「・・・っ」
「銀!?」
慌てて駆け寄ってきたのは、彼等の中でも一番年嵩に見える少年。
「だいじょぶ?銀時・・・って、この子・・・この集落の生き残り?」
「警戒しているな」
「十一・・・麿ちゃん・・・殺気消して。余計怖がる」
キョトリとした少年と眉間にしわを寄せた少年に、銀髪の少年が告げる。
「こんな目に遭ったんだ。警戒して当然だろう?・・・むやみやたらに手を伸ばした銀が悪い」
「ん、玄ちゃんの言う通り。ごめんね?・・・殴られるかと思った?」
少しだけ距離をとってしゃがみ込み、こちらに話しかけてくる銀髪の少年に戸惑う。
「おい、答えろよ」
ギロリ、と短気そうな少年が威嚇するように促すと、その頭を女顔の少年が叩いた。
「たわけ者!!余計に怯えさせてどうするんだ!高杉!」
「ウルセェなァ、ヅラは。ったく・・・思いっきり叩かなくたっていいじゃねェか」
「ヅラじゃない!桂だ!!」
彼等のやり取りで名前と力関係がなんとなくわかる。だが、まだ警戒を解くわけにはいかない。
「なぁ、お前・・・名前は?」
根気よく銀髪の少年が声をかけてくる。
「止めとけよ銀時。コイツ、口がきけねェんだよ。それか口をきく気がねェか。どっちにしたってここで俺達が何出来んだよ」
戦場にでも連れてくつもりか。
そう言われれば、銀髪の少年は困ったように眉根を寄せた。
「晋助・・・でも・・・せめて、人がいる所に」
「バカだな、今じゃ自分と家族が生きてくだけでも精一杯って奴らばかりなんだぞ?そんな所にガキを連れてったって、邪険にされるに決まってんだろ」
言い返されれば何とも言えず、銀髪の少年は俯いてしまう。
「晋、言い過ぎだぞ」
「フン・・・俺達は攘夷戦争に参加してるんだぜ?それに、犬猫を拾うのとはわけが違う」
「そりゃそうだが・・・」
彼等の話の半分も理解はできなかったが、おそらくは自分の処遇について話しているのだろうということはわかった。
ついでに、あの短気そうな少年には毛嫌いされているということも。
「・・・夏之介」
「え?」
「保科夏之介!!俺の名前だ!お前ら攘夷志士だろ!?もうここには食べ物なんて残ってない!俺のことなんてほっとけよ!どっか行け!」
威嚇して毛を逆立たせている猫のような子どもに、少年達は呆然と視線を向けた。
「攘夷志士が食べ物を略奪してるって話は聞いたことはあるけど・・・まさか、そんな連中と同じにされるとはな」
深い溜息をつき眉間にしわを寄せる少年。
「まぁ、でもそんなもんじゃないの~?攘夷志士のイメージってさ」
軽い調子でそう言った少年に女顔の少年がくってかかる。
「バカ言え、俺達は国の為を思ってだな!」
「ハイハイ、耳にタコ。・・・こんなガキに何言ったってわかんねェよ」
短気そうな少年にそう言われ、女顔の少年はムッとする。
「なぁ、なつのすけって、字はどう書くんだ?」
そんな少年たちをまるっと無視して銀髪の少年が問いかけてくる。
「え・・・と、夏・之・介」
武家の子としてある程度の知識は叩き込まれていたため、自分の名前くらいは書ける。ぐりぐりと拙い字で地面に名前を書いて見せると、銀髪の少年は破顔した。
「そっか・・・良い名前だな」
銀髪の少年の笑顔を見た瞬間、警戒していた心が緩む。
「お前の名前・・・」
呼ばれているから音はわかる。だが、字が知りたかった。
「ん?俺か?俺は・・・銀・時っていうんだ」
彼はちゃんと地面に字を書きながら、自分の名前を告げた。
「銀時・・・」
ビビッときた、とはこういうことをいうのだろう。夏之介はキラキラとした目を銀時に向けた。
「ん?」
ことり、と首を傾げた銀時に、夏之介はしがみつくようにして言った。
「俺も連れて行って!父上も母上も、みんな、天人に殺された!俺・・・俺、みんなの仇を討ちたい!!」
「え、ちょ・・・」
戸惑った様子の銀時に、高杉は呆れたように溜息をついた。
「ほらな・・・余計なことするからだぞ」
「刀なら扱える!・・・まだ、小太刀しか使えないけど・・・俺だって武家の子だ!」
武家、という言葉に少年達は目を丸くした。
薄汚れた子どもは、どう見たってそこらの農民の子のように見えたのだ。
だが、よくよく思い返してみれば、名字を告げていたということはそれなりに身分のある家の子どもということであり、それに着物も汚れてはいるが上等な作りとわかる。
「待てよ、保科っていったら幕府の高官の名前じゃねェか」
高杉が呟く。
幕府にも繋がりを持っていた父の話を聞いていて、幕府の役人の名前はよく聞いていた。その中でも上の方に位置している者の中に保科という名の人物がいたのを思い出したのだ。
「幕府高官の保科は、俺の父の又従兄で・・・」
「へェ、そうなのか」
高杉の興味はそこまでだったようで、夏之介の言葉を最後まで聞くことなく相槌を打ってフイ、と顔を逸らした。
「なぁ、夏之介・・・仇を討ちたいって言ったな」
銀時が真剣な表情で問う。
「うん、討ちたい」
「・・・そうか」
銀時は少し考え込み、それから手を差し出した。
「付いて来い。もし、遅れるようなら置いて行く・・・良いな?」
「・・・はい!」
勢い良く頷いた夏之介に銀時は頷き、他の少年達は止めるでもなくしょうがないといった雰囲気で苦笑をうかべた。
***
春井道場は近辺の武家の子ども達に剣術を教える父の道場だった。母は幼い頃に亡くなり、5つ上の姉が1人。
裕福、とは言い難いがそれなりに扶持(ふち)を貰って暮らしていたので、衣食住に困ることはなかった。
そんな生活が一変したのが天人の襲来から約8年後。攘夷戦争も末期という頃、突如天人の軍勢が春井道場のある村を襲った。
戌威族―――犬頭人身の天人。女は凌辱され、男は喉を裂かれて殺された。
姉も、父も・・・仲の良かった村の子ども達も、みんな死んでいった。
なぜ、自分が生き残れたのか。
姉が懸命に自分だけはと床下の貯蔵庫に隠してくれたことだけは覚えていて・・・その後のことは耳を塞いでただじっとしていたからわからなかった。
おびただしい血の海が床上に広がっていたのを見れば、どんなことがあったのかは想像できるが、想像したくないというのが本音だ。
さすがの戌威族(ワンコ)も、むせかえる血のにおいの中で己のにおいを嗅ぎわけることは出来なかったようで、床下まで荒らされなかったのが不幸中の幸いといえた。
しかし、ただ1人残されてこの先どうしたらいいのか、途方に暮れてしまった。
とにかく、父や姉の分まで生きるのだと決めて、後ろ髪引かれる思いを振りきって村を後にした。
「そういえば・・・アイツは無事だろうか」
近くの集落から道場に通って来ていた同じ年の少年のことを思い出す。
少々泣き虫なのが玉に瑕だが、それでも彼とは気が合ったので、いつも組を作る時は一緒になって剣術の稽古に励んだ。
楽しかった思い出ばかりが脳裏を過り、辛い現実を受け止めきれていないのだとどこか冷静に判断する自分がいる。
攘夷戦争も末期となり戦火は広がるばかり。見たこともないような大きな武器で侍達を圧倒した天人に、幕府も及び腰になっていると聞いた。
「この国は、どうなってしまうんだろう・・・」
溜息交じりに呟きながら、生きるための術を探す旅を続ける。
何日が過ぎただろうか。村や集落が点在していたハズのこの地域だが、1つとして無事な場所はなかった。
「そんな・・・ここもだなんて・・・」
自分の知る限り探しまわったが、どの村や集落でも生存者は見つからなかった。
愕然とする。世界中で人間は自分たった1人になってしまったかのような感覚。希望が打ち砕かれていく。あの時、姉と共に死ねていたならばと生を呪う。
呆然とたたずむ己の周りに気配が集まって来る。
胡乱気に視線を向ければ、そこには牛型の天人の軍勢がいた。
もうどうにでもなれという気分だった。ぼろきれのようにされようが、五体バラバラにされようが、何の感情も湧かないだろうと思った。
(痛い、くらいは感じるかな)
姉達はもっと辛い思いをしたのだろう。嬲(なぶ)られた村の女の死体を見たことがあるため、姉がどうなったかも想像に難くない。
それに比べれば、男である自分はただ殺されるだけなのだからマシだとさえ思えた。
(殺せばいい。どうせ、私には何も残っていない)
諦めの表情で目を閉じた―――が、痛みは来なかった。
「がっ!」
「ぐあっ」
「な、何だ、貴様ら!!」
天人達が騒ぎ出す。
何事かと目を開き、瞠目した。
「・・・な」
まるで剣舞を舞うような戦い方をする少年だった。
ひらりひらりと身軽に天人達の攻撃を交わし、相手の武器を奪いながら次々と自分の倍はあるのではないかという天人達を斬り倒していく。
綺麗だ、と思った。
剣術は型が美しいことが好ましいと父は何度も言っていた。型にこだわる父は、少しでも狂うと厳しくそれを指導した。
だが、彼の少年の剣に型はなかった。滅茶苦茶に振り回しているようにも見えるのに、それを綺麗だと感じたのだ。
呆然とその戦いを見ていたが、いつしか天人達は動かなくなっていた。
「・・・・・・強い」
思わず感嘆の声が漏れた。
次の瞬間、ゴチンという音と共に頭に衝撃が来た。
「バカ野郎!!何やってんだオマエ!死ぬ気か!!」
「~~~ったぁ・・・」
思いの外強く殴られて、頭を抱えてしゃがみ込む。
「こんなの比較にならないくらいに痛い思いをして死ぬとこだったんだぞ!!」
少年の叱責に、痛みで潤んだ目を閉じる。
「死ぬ・・・つもりだったんだ・・・だって、もう、何も・・・残ってないから」
生きる気力すら残っていなかった。
「お前っ・・・」
「・・・っ良太郎!」
少年が怒りの声をあげる直前に、聞き覚えのある声が耳に届く。
「え・・・夏之・・・介?」
共に剣を学んだ朋友の姿に、良太郎は目を丸くした。
「村、見たよ・・・お前、もう死んだと思ってた・・・!」
抱きついてきた夏之介は号泣していた。わんわんと恥ずかしげもなく泣ける夏之介が今は羨ましかった。
自分も泣いて、思いを昇華出来れば良いのにと思った。
ゴチン!
「痛っ」
また少年に殴られた。
「泣けよ!辛かったら泣け!嬉しかったら泣け!生きろ!お前はまだ生きているんだ。生きたくても生きることの出来なかった人達の分まで、その生を大事にしろ!それが・・・それが生き残った者の義務だ!」
心からの叫びだった。その目には深い悲しみが映しだされていた。
(この人も・・・大切な誰かを失ったんだ)
良太郎はそう感じた。そう感じたら涙が溢れてきた。
もう―――涙が止まらなくなっていた。
「あーあ、銀時ったらまた拾っちゃうんだろうな~」
「全く・・・他の陣にも子ども2人囲ってんのに・・・」
「まぁ、先輩方も何も言わないのだから・・・良いだろう」
「というか、あの2人とこの2人は違うだろ」
「まぁ、玄人と素人の差はあるだろうが・・・武家の子ならば問題ないだろう」
銀時達を遠巻きに見つめながら、幼馴染達は再び諦めの表情で言葉を交わす。
銀時が拾ってくる子どもはどこか銀時自身に似ている境遇の子どもばかりだ。警戒心が強く、少し厭世的で、戦争孤児。
放っておけないのだろうと思った。
師である松陽も、銀時を拾ってきた時に言っていた。
『ほっとけなかったんですよねぇ・・・懐かせてみたいと思ったんです』
ほけほけと笑いながら告げた師に、子ども心にそんなんで良いのかと思ったのは一生心の中にしまっておこう。そう決めた。
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天人の軍勢が集落を、村を、どんどんと侵略し略奪しペンペン草も生えないほどに荒らしていく。
人心は荒れ、田畑を耕す気力さえも失い、ただ、死による安寧を望む者さえいた。
集落を治めていた父。集落の者達から慕われていた母。若様と呼ばれていた自分。
天人はそれらすべてを奪い去り、己1人がその集落に残された。
頼れる親戚は江戸にいるが、子どもの足でこの戦乱続く世に旅をするなどとんでもないことだった。
わずかに残る食料と水。それらで命を長らえさせながらも、なぜ自分は生きているのだろうと自問する。
徐々に蓄えは無くなり、腹が減れば草の根すらも口にし、喉が乾けば雨水を溜めた碗を乾す。いっそ死ねれば楽だろうにと思いながらも“生”にしがみつくのを止められない。
“あの人”達に会ったのはそんな生活を始めて一月ほどたったころだった。
「・・・酷いものだ」
集落の跡地を見まわし溜息をつく彼。まだ、元服して数年という年頃だろうか、丸みが残る顔立ちには疲れが見えていた。
「どこに行ってもこの有様・・・奴等を追いかけるだけではダメだな。先回りをして狙われそうな集落を防衛するという方法に変えよう」
「だな~・・・と言っても、幕府もだいぶ腰が引けてるらしいからな~。それに見てよ、この長巻・・・ぼろっぼろ」
「磨ぐ暇なんてねェからな」
「ホント~、最近なんて斬るじゃなくて叩くって感じだもん。後は突き刺すとか。痛いと思うよ~コレ。切れ味悪いから余計に」
「文句言ってる場合か。そろそろ行くぞ・・・本隊から連絡のある経由地まではまだまだ遠いんだからな」
「わ~ってるって・・・先輩達にどやされるのも勘弁願いたいし」
ワイワイと話している少年達の目には気力がみなぎり、まだ諦めていないということがわかった。
だが、噂に聞く限りでは“攘夷志士”も立場が危ういらしく天人と同じように略奪に走る者達もいるらしい。もう何も失うものはないが、戯れに殺されないとも限らない。
息を潜めて隠れていると、不意にキラキラとしたものが目に映った。
「生きてる・・・?」
それは話しかけてきた少年の髪だった。珍しい銀髪、血の色に似た赤い瞳、息を詰まらせてそれを見ていたが、少年が手を伸ばしてきた瞬間にその手を薙ぎ払っていた。
「・・・っ」
「銀!?」
慌てて駆け寄ってきたのは、彼等の中でも一番年嵩に見える少年。
「だいじょぶ?銀時・・・って、この子・・・この集落の生き残り?」
「警戒しているな」
「十一・・・麿ちゃん・・・殺気消して。余計怖がる」
キョトリとした少年と眉間にしわを寄せた少年に、銀髪の少年が告げる。
「こんな目に遭ったんだ。警戒して当然だろう?・・・むやみやたらに手を伸ばした銀が悪い」
「ん、玄ちゃんの言う通り。ごめんね?・・・殴られるかと思った?」
少しだけ距離をとってしゃがみ込み、こちらに話しかけてくる銀髪の少年に戸惑う。
「おい、答えろよ」
ギロリ、と短気そうな少年が威嚇するように促すと、その頭を女顔の少年が叩いた。
「たわけ者!!余計に怯えさせてどうするんだ!高杉!」
「ウルセェなァ、ヅラは。ったく・・・思いっきり叩かなくたっていいじゃねェか」
「ヅラじゃない!桂だ!!」
彼等のやり取りで名前と力関係がなんとなくわかる。だが、まだ警戒を解くわけにはいかない。
「なぁ、お前・・・名前は?」
根気よく銀髪の少年が声をかけてくる。
「止めとけよ銀時。コイツ、口がきけねェんだよ。それか口をきく気がねェか。どっちにしたってここで俺達が何出来んだよ」
戦場にでも連れてくつもりか。
そう言われれば、銀髪の少年は困ったように眉根を寄せた。
「晋助・・・でも・・・せめて、人がいる所に」
「バカだな、今じゃ自分と家族が生きてくだけでも精一杯って奴らばかりなんだぞ?そんな所にガキを連れてったって、邪険にされるに決まってんだろ」
言い返されれば何とも言えず、銀髪の少年は俯いてしまう。
「晋、言い過ぎだぞ」
「フン・・・俺達は攘夷戦争に参加してるんだぜ?それに、犬猫を拾うのとはわけが違う」
「そりゃそうだが・・・」
彼等の話の半分も理解はできなかったが、おそらくは自分の処遇について話しているのだろうということはわかった。
ついでに、あの短気そうな少年には毛嫌いされているということも。
「・・・夏之介」
「え?」
「保科夏之介!!俺の名前だ!お前ら攘夷志士だろ!?もうここには食べ物なんて残ってない!俺のことなんてほっとけよ!どっか行け!」
威嚇して毛を逆立たせている猫のような子どもに、少年達は呆然と視線を向けた。
「攘夷志士が食べ物を略奪してるって話は聞いたことはあるけど・・・まさか、そんな連中と同じにされるとはな」
深い溜息をつき眉間にしわを寄せる少年。
「まぁ、でもそんなもんじゃないの~?攘夷志士のイメージってさ」
軽い調子でそう言った少年に女顔の少年がくってかかる。
「バカ言え、俺達は国の為を思ってだな!」
「ハイハイ、耳にタコ。・・・こんなガキに何言ったってわかんねェよ」
短気そうな少年にそう言われ、女顔の少年はムッとする。
「なぁ、なつのすけって、字はどう書くんだ?」
そんな少年たちをまるっと無視して銀髪の少年が問いかけてくる。
「え・・・と、夏・之・介」
武家の子としてある程度の知識は叩き込まれていたため、自分の名前くらいは書ける。ぐりぐりと拙い字で地面に名前を書いて見せると、銀髪の少年は破顔した。
「そっか・・・良い名前だな」
銀髪の少年の笑顔を見た瞬間、警戒していた心が緩む。
「お前の名前・・・」
呼ばれているから音はわかる。だが、字が知りたかった。
「ん?俺か?俺は・・・銀・時っていうんだ」
彼はちゃんと地面に字を書きながら、自分の名前を告げた。
「銀時・・・」
ビビッときた、とはこういうことをいうのだろう。夏之介はキラキラとした目を銀時に向けた。
「ん?」
ことり、と首を傾げた銀時に、夏之介はしがみつくようにして言った。
「俺も連れて行って!父上も母上も、みんな、天人に殺された!俺・・・俺、みんなの仇を討ちたい!!」
「え、ちょ・・・」
戸惑った様子の銀時に、高杉は呆れたように溜息をついた。
「ほらな・・・余計なことするからだぞ」
「刀なら扱える!・・・まだ、小太刀しか使えないけど・・・俺だって武家の子だ!」
武家、という言葉に少年達は目を丸くした。
薄汚れた子どもは、どう見たってそこらの農民の子のように見えたのだ。
だが、よくよく思い返してみれば、名字を告げていたということはそれなりに身分のある家の子どもということであり、それに着物も汚れてはいるが上等な作りとわかる。
「待てよ、保科っていったら幕府の高官の名前じゃねェか」
高杉が呟く。
幕府にも繋がりを持っていた父の話を聞いていて、幕府の役人の名前はよく聞いていた。その中でも上の方に位置している者の中に保科という名の人物がいたのを思い出したのだ。
「幕府高官の保科は、俺の父の又従兄で・・・」
「へェ、そうなのか」
高杉の興味はそこまでだったようで、夏之介の言葉を最後まで聞くことなく相槌を打ってフイ、と顔を逸らした。
「なぁ、夏之介・・・仇を討ちたいって言ったな」
銀時が真剣な表情で問う。
「うん、討ちたい」
「・・・そうか」
銀時は少し考え込み、それから手を差し出した。
「付いて来い。もし、遅れるようなら置いて行く・・・良いな?」
「・・・はい!」
勢い良く頷いた夏之介に銀時は頷き、他の少年達は止めるでもなくしょうがないといった雰囲気で苦笑をうかべた。
***
春井道場は近辺の武家の子ども達に剣術を教える父の道場だった。母は幼い頃に亡くなり、5つ上の姉が1人。
裕福、とは言い難いがそれなりに扶持(ふち)を貰って暮らしていたので、衣食住に困ることはなかった。
そんな生活が一変したのが天人の襲来から約8年後。攘夷戦争も末期という頃、突如天人の軍勢が春井道場のある村を襲った。
戌威族―――犬頭人身の天人。女は凌辱され、男は喉を裂かれて殺された。
姉も、父も・・・仲の良かった村の子ども達も、みんな死んでいった。
なぜ、自分が生き残れたのか。
姉が懸命に自分だけはと床下の貯蔵庫に隠してくれたことだけは覚えていて・・・その後のことは耳を塞いでただじっとしていたからわからなかった。
おびただしい血の海が床上に広がっていたのを見れば、どんなことがあったのかは想像できるが、想像したくないというのが本音だ。
さすがの戌威族(ワンコ)も、むせかえる血のにおいの中で己のにおいを嗅ぎわけることは出来なかったようで、床下まで荒らされなかったのが不幸中の幸いといえた。
しかし、ただ1人残されてこの先どうしたらいいのか、途方に暮れてしまった。
とにかく、父や姉の分まで生きるのだと決めて、後ろ髪引かれる思いを振りきって村を後にした。
「そういえば・・・アイツは無事だろうか」
近くの集落から道場に通って来ていた同じ年の少年のことを思い出す。
少々泣き虫なのが玉に瑕だが、それでも彼とは気が合ったので、いつも組を作る時は一緒になって剣術の稽古に励んだ。
楽しかった思い出ばかりが脳裏を過り、辛い現実を受け止めきれていないのだとどこか冷静に判断する自分がいる。
攘夷戦争も末期となり戦火は広がるばかり。見たこともないような大きな武器で侍達を圧倒した天人に、幕府も及び腰になっていると聞いた。
「この国は、どうなってしまうんだろう・・・」
溜息交じりに呟きながら、生きるための術を探す旅を続ける。
何日が過ぎただろうか。村や集落が点在していたハズのこの地域だが、1つとして無事な場所はなかった。
「そんな・・・ここもだなんて・・・」
自分の知る限り探しまわったが、どの村や集落でも生存者は見つからなかった。
愕然とする。世界中で人間は自分たった1人になってしまったかのような感覚。希望が打ち砕かれていく。あの時、姉と共に死ねていたならばと生を呪う。
呆然とたたずむ己の周りに気配が集まって来る。
胡乱気に視線を向ければ、そこには牛型の天人の軍勢がいた。
もうどうにでもなれという気分だった。ぼろきれのようにされようが、五体バラバラにされようが、何の感情も湧かないだろうと思った。
(痛い、くらいは感じるかな)
姉達はもっと辛い思いをしたのだろう。嬲(なぶ)られた村の女の死体を見たことがあるため、姉がどうなったかも想像に難くない。
それに比べれば、男である自分はただ殺されるだけなのだからマシだとさえ思えた。
(殺せばいい。どうせ、私には何も残っていない)
諦めの表情で目を閉じた―――が、痛みは来なかった。
「がっ!」
「ぐあっ」
「な、何だ、貴様ら!!」
天人達が騒ぎ出す。
何事かと目を開き、瞠目した。
「・・・な」
まるで剣舞を舞うような戦い方をする少年だった。
ひらりひらりと身軽に天人達の攻撃を交わし、相手の武器を奪いながら次々と自分の倍はあるのではないかという天人達を斬り倒していく。
綺麗だ、と思った。
剣術は型が美しいことが好ましいと父は何度も言っていた。型にこだわる父は、少しでも狂うと厳しくそれを指導した。
だが、彼の少年の剣に型はなかった。滅茶苦茶に振り回しているようにも見えるのに、それを綺麗だと感じたのだ。
呆然とその戦いを見ていたが、いつしか天人達は動かなくなっていた。
「・・・・・・強い」
思わず感嘆の声が漏れた。
次の瞬間、ゴチンという音と共に頭に衝撃が来た。
「バカ野郎!!何やってんだオマエ!死ぬ気か!!」
「~~~ったぁ・・・」
思いの外強く殴られて、頭を抱えてしゃがみ込む。
「こんなの比較にならないくらいに痛い思いをして死ぬとこだったんだぞ!!」
少年の叱責に、痛みで潤んだ目を閉じる。
「死ぬ・・・つもりだったんだ・・・だって、もう、何も・・・残ってないから」
生きる気力すら残っていなかった。
「お前っ・・・」
「・・・っ良太郎!」
少年が怒りの声をあげる直前に、聞き覚えのある声が耳に届く。
「え・・・夏之・・・介?」
共に剣を学んだ朋友の姿に、良太郎は目を丸くした。
「村、見たよ・・・お前、もう死んだと思ってた・・・!」
抱きついてきた夏之介は号泣していた。わんわんと恥ずかしげもなく泣ける夏之介が今は羨ましかった。
自分も泣いて、思いを昇華出来れば良いのにと思った。
ゴチン!
「痛っ」
また少年に殴られた。
「泣けよ!辛かったら泣け!嬉しかったら泣け!生きろ!お前はまだ生きているんだ。生きたくても生きることの出来なかった人達の分まで、その生を大事にしろ!それが・・・それが生き残った者の義務だ!」
心からの叫びだった。その目には深い悲しみが映しだされていた。
(この人も・・・大切な誰かを失ったんだ)
良太郎はそう感じた。そう感じたら涙が溢れてきた。
もう―――涙が止まらなくなっていた。
「あーあ、銀時ったらまた拾っちゃうんだろうな~」
「全く・・・他の陣にも子ども2人囲ってんのに・・・」
「まぁ、先輩方も何も言わないのだから・・・良いだろう」
「というか、あの2人とこの2人は違うだろ」
「まぁ、玄人と素人の差はあるだろうが・・・武家の子ならば問題ないだろう」
銀時達を遠巻きに見つめながら、幼馴染達は再び諦めの表情で言葉を交わす。
銀時が拾ってくる子どもはどこか銀時自身に似ている境遇の子どもばかりだ。警戒心が強く、少し厭世的で、戦争孤児。
放っておけないのだろうと思った。
師である松陽も、銀時を拾ってきた時に言っていた。
『ほっとけなかったんですよねぇ・・・懐かせてみたいと思ったんです』
ほけほけと笑いながら告げた師に、子ども心にそんなんで良いのかと思ったのは一生心の中にしまっておこう。そう決めた。
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