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Refused Reality(元・現実を拒絶した夢の中)

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注意
・あくまでも二次創作であることを前提にお読みください
・一国傾城編の過去話は完全に無視の状態です

以上、同意できる方のみ↓へ・・・









銀時が、いつも大切そうに抱きしめている刀を抜き放ち天人に斬りかかる。天人がそれを片腕で防ぐ。

何度か打ちこもうとするものの銀時の攻撃は全く当たらず、天人が刀を横に払うのを避けそこなって頬が軽く裂ける。

「銀時っ!・・・やめっ」

松陽が叫ぼうとした時、銀時の腹部に天人の突き出した刀がわずかに刺さったように見えて息を詰めた。

天人も刀がひっかかった感覚はあったのだろう。ほんの一瞬動きを止めた。

銀時の破れた着物の懐からわずかに血がついた教本が落ちる。天人と松陽の視線がその教本に向けられた。

その一瞬の隙を銀時は見逃さずに天人の背後に回り、その肩に思いっきり刀を振り下ろした。

「――――ぐっ」

低く天人が呻く。だが銀時の全体重をかけても腕を落とすまでは至らない。しかも、銀時が狙ったのは刀を持つ右肩。

しかし、松陽は打ち合った時にわかっていた。天人の利き手は“右”じゃない。

「銀時っ!!」

もう痛みなど感じなかった。なりふり構わず無我夢中で銀時の元へと駆け寄った。

「先生!!」

銀時の叫び声と、反射のように繰り出された天人の一撃。

背中が燃えるように熱い―――武士ならば最も恥じるべき場所に新たに作られた創(きず)。だがそれは松陽にとっては誇りにできる創だった。

「ぶ、じ・・・です、か?」

力いっぱい抱きしめていた身体を離して銀時の顔に触れながら松陽は訊ねる。

月明かりで余計に青白く見える顔に浮かんだのは安堵の表情。

「せ、んせ・・・っ」

子どもでも一目でわかるくらいに深い、肩口から腰のあたりまである背中の創。やっとのことで上半身を支える片腕もガクガクと震え、いつ倒れ伏してもおかしくない。

「せん・・・せ」

激痛のせいでわかりにくいが足が動かない。おそらく背中の創のせいだろう。

目に映るボロボロと大粒の涙を流す銀時の顔がかすむ。

まだ死ねない。

「にげ、なさい・・・銀時・・・」

天人の先程の一撃は反射的なもので、殺気は全く感じられなかった。それに彼の目的は果たされた。無益な殺生はしないはず。

「や・・・やっ・・・」

首をフルフルと横に振る銀時に、松陽は笑みをうかべた。

「・・・生きて・・・ください・・・己の魂が、指し・・・示す、ままに・・・」

――――――私の、銀時(愛しい子)。

己の名を口にして、松陽はその場に倒れ伏した。

最後の力を振り絞って告げられた言葉に、銀時はただ涙するしかなかった。

天人の表情は凪いでいた。仕事は終わったとばかりに大振りの刀を鞘にしまい、故意に避けていた松陽の文机に視線を向ける。

「嘆願状・・・やはり、まだ書いていたか」

これが幕府に渡っていれば危なかった。今までの強硬路線を変更する可能性が高くなっていただけに。

このようなものを残しておくわけにはいかない。これは幕府の中にいる“賢き者”への警告だ。意志を継がれては困る。

なるべく残酷に。ああはなりたくないと思わせるように殺せと言われている。

だが、天人の男は己に興味を抱かせるほどの殺気を放ち、肩に創(きず)をつけたこの子どもにその様子を見せたくはないと思った。

この子どもの心を折るのは容易い。が、己を憎み追ってくるならばその方が面白いと思った。

この子どもは、ただ命じられるままに相手を殺してきた己の日常に刺激を与えてくれる者へと成長するやもしれない。

ただの気まぐれ。だが、半分以上本気でそう思いながら天人は銀時を見やった。

「・・・真白の子鬼」

銀時はビクリと肩を跳ね上げさせた。

「俺を恨むならば恨め、憎むならば憎め・・・それを糧に生きて行け」

銀時が振り返るよりも早く、天人は銀時の首根っこを捕まえて吊り上げた。

「は、放せっ!放せぇっ!!」

バタバタと足をバタつかせて暴れる銀時の首を腕で締めあげる。

「ぅ・・・ぐ・・・っ!!」

徐々に抵抗する力が弱くなり、カクン、と突如力が抜けた。

天人は落ちていた教本と刀を拾い上げ、銀時を担ぎ屋敷の門の外に出るとその場に放り投げた。完全にオチているためか銀時が起きる様子はない。

しばらく銀時を見つめていた天人だが、スッと視線を外して再び松陽の私室に戻ってきた。

倒れ伏す松陽に無感動な視線を向け、すらりと刀を抜く。

「侍とやらはこうして“首(シルシ)”を取り、罪人を裁くらしいからな。より効果があるだろう」

淡々と作業をこなし、天人はその“首”を部屋にあった風呂敷で包んで小脇に抱え、行灯を見やる。

「・・・証拠隠滅にはこれが一番か・・・」

天人は呟いて行灯を蹴倒す。

油がこぼれ畳に引火すれば木造の屋敷は容易く燃え落ちる。火の勢いは徐々に大きくなっていった。

屋敷の外に出た天人は燃え上がる屋敷に背を向け、門の外で気絶している銀時に歩み寄った。

「自分でもらしくないことをしたと思うが・・・真白き子鬼、いつか俺を殺しに来い。楽しみにしているぞ?」

クツリと笑い、天人は屋敷の前の坂を下って行く。

村は大騒ぎになっていた。松陽の家が燃えているのが遠目でもわかるくらいになったからだ。

「ありゃ、先生の家だ!」

「いかん、若い衆を叩き起こせ!火を消すんじゃ!」

騒ぎに乗じて、天人は村塾とは逆の方へと向かっていく。

トン、と何かが足に当たり、天人は下を向いた。

「あ、ごめん・・・な、さい」

急いで走っていた小さな子どもが足にぶつかってしまったらしい。

振り返って素直に謝るがきつそうなツリ目が己を訝しむ様に見るのに天人は口の端を吊り上げた。

「・・・いや」

この一瞬の邂逅がこの子どもにに大きな創を負わせることになるのは、攘夷戦争の真っ只中のこと―――。


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