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Refused Reality(元・現実を拒絶した夢の中)

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その土方の言葉を聞いた松陽はゆるりと口の端を上げた。

未来の銀時のことを知るのは躊躇ったが、土方の言葉だけで充分未来の銀時の様子は伺い知れた。

(この子は、ちゃんと己の魂を守るために刀を振るえるようになるんですね)

短い付き合いではあるが土方の人柄は何となくわかりかけていた。その土方をして目標と言わしめる未来の教え子が、松陽はとても誇らしかった。

「ちっ・・・これは一生、心ン中にしまっとくつもりだったのによ・・・」

思わず吐露してしまった本音に、バツが悪くなりながら土方は銀時に視線を向ける。そこには、頬を真っ赤に染めてぷるぷると震える銀色の子どもがいた。

目が合い、しまったと思った瞬間、銀時は脱兎のごとく部屋から逃げるように出て行ってしまった。

「あー・・・土方さん、そのー・・・旦那には黙っときますんで・・・」

さすがにからかうことが出来なかったらしい。沖田がポン、と肩を叩く。

「いやぁ、大告白って感じでしたねェ・・・副長が旦那を目標にしてるなんて・・・まぁ、わかりますけどね。旦那は強いお人ですし・・・」

山崎もうんうんと頷きながら生暖かい視線を向け、

「土方さん・・・これでツンデレキャラ確立ですか・・・そうですか、最初はまじめ一辺倒のツッコミだけだったってのに、ギャグだけじゃ飽き足らず、ツンデレにまで手を出すんですか・・・」

新八は恨めしげにそんなことを呟いて、

「銀ちゃんに言わないでいてやるから、向こうに帰ったら酢昆布1年分寄越せヨ、ニコマヨ」

神楽に至っては脅しまでかけて来た。

「テメェ等・・・言いたきゃ言いやがれ!もうどうなったって知るか!!」

土方は開き直ってそう叫び、銀時を追うように部屋を走り出た。

「・・・フフ、皆さん・・・土方さんを虐めすぎじゃありませんか?」

そんな土方を見送って松陽が苦笑をうかべれば、同じような笑みがその場の全員から返って来た。

「いや、まさか・・・土方さんが旦那をあそこまで評価してることを認めるとは思わなかったんでィ」

「全くですよ・・・まさかの本音がここで聞けるなんて・・・」

「びっくりしちゃいました・・・会えばいつもイヤミの応酬なのに・・・」

「・・・本当に銀ちゃんに言ったら、鳥肌立ったとか言われそうネ」

「いや~、さすがの銀さんでも今のはからかえないと思うんだけど」

彼等の言葉から、未来の銀時と土方の関係性が覗(うかが)えて、松陽はクスクスと笑った。

「銀時は楽しく毎日を過ごせているんですね・・・それがわかっただけでも良かった」

松陽はそう言って、嬉しそうに目を細めた。



***



一方、銀時を追って部屋を出た土方は、屋根の上に月明かりに照らされてキラキラと光る銀髪を見とめ、屋根の上によじ登る。

「よろ・・・銀時!」

名を呼べば、彼はビクリと肩を震わせて、チラリとこちらに視線を寄越した。

「なんだよ・・・」

「あの・・・悪かったな・・・その・・・妙な事言っちまって」

「・・・別に」

銀時は土方から顔を背け、言葉だけが耳に届く。

「でも、目標だっつったのは・・・マジだからな」

「恥ずかしい奴・・・」

「ウルセっ、自分でもそう思うわ!」

土方が言えば、ふるふると肩を震わせ銀時が抱えた膝に顔を埋めた。

「ふ・・・ククッ」

「・・・笑うなよ、クソガキ」

一瞬泣いたのかと焦った土方は、漏れ聞こえた笑い声にムッとした表情をうかべた。

「ふふ・・・俺のことガキとか言ってるけど、お前ら未来から来たんだろ?たいして歳変わらないんじゃない?」

「ぐ・・・今ァ、何年だ?」

「安政6年?・・・だったと思うけど?」

「ってぇことは・・・現代から・・・15年前か。テメェいくつだよ」

「んとぉ、数え歳で13?」

「とすると、満年齢じゃ12か。・・・げ。2つ上かよ」

「ふふん・・・年下かァ・・・」

ニヤリ、と笑ったその表情はまさに未来の銀時のドSっぷりを連想させるもので。

思わず身を引いた土方に、銀時は小首を傾げた。

「何やってんの、お前。ってか、年下なら遠慮はいらねーよな?」

「・・・一応、俺は今のテメェの倍は生きてんだ。敬えクソガキ」

「はァ?なんで年下を敬わなきゃならねーんだよ」

「・・・つか、人が変わってねェか?」

「変わってねーもん。お前の気のせいだってェ~」

「・・・テメェ・・・吉田さんの前じゃ、猫被りしてやがんな!?」

ハッとして睨みつければ、銀時は目を細めた。

「先生の前、じゃなくてお前等の前、ね。・・・知らない人間に本性なんか見せられるかよ」

「・・・イイ性格してんじゃねェか」

「うん、よく言われるー。晋助とか小太郎とかに」

そう言われて、なんとなく違和感を感じていたことを思い出した。

「・・・高杉と桂の喧嘩を止めた一言、あれ、脅しか?」

「・・・・・・・・・えへ?」

にぱっと笑った銀時に、土方はガックリと肩を落とした。

(一瞬でも、コイツが可愛いと思った俺がバカだった!!!)

「あのさ・・・村塾でも先生や晋助、小太郎以外ではあと2、3人しか俺の本性は知らないよ?」

「!?」

ガバ、と顔を上げた土方に、銀時は綺麗な笑みを向けた。

「これ、他の未来から来たヤツらには内緒ね?」

「・・・テメェの性格がひん曲がってんのは、俺を含め、あの場の全員が知ってるよ」

「へぇ・・・そーなんだ。知ってて目標なんて言っちゃってんの?」

「引き摺るなよ、そのネタ・・・」

眉間に深いしわをきざんだ土方に、銀時はフッと表情を陰らせる。

「・・・ねぇ、未来で先生とは会ってないの?初対面っぽかったよね、皆。俺の傍に先生はいないの?」

ゆらゆらと不安に揺れる瞳に見つめられて土方は目を瞠った。本性があんなでも、不安に思うことは多くあるのだろう。自覚無く怯える銀時もまた本物なのだ。

「未来の事は喋るな。俺は、ガキ共にそう言ったな?・・・その俺がベラベラと喋ると思うか?」

「思わ・・・ない」

「わかってんなら聞くな。テメェが成長していく過程でわかることだ」

「・・・先生を頼ってくる人間は多い。特に攘夷戦争に参戦してる奴等が・・・幕府にも知り合いがいるから、先生が橋渡し役になることも多くて・・・でも、いつか先生が言ってたんだ。“私は、お前達の未来(さき)を見ることができるのでしょうか”って」

直接口にはしないが、銀時の不安は土方には充分すぎるほど伝わっていた。

未来では、松陽がいない。

“死”という言葉が頭を過る。それは、土方自身も危惧していることだった。

高杉や桂、銀時の今の状況が180度変わるとしたら、それは松陽の死によるものではないのかと。


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