Refused Reality(元・現実を拒絶した夢の中)
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注意
・カレルル前提ルル総受け
・キャラ壊れ注意報
・時間軸完全無視
・捏造満載
以上、同意できる方のみ↓へ・・・
「・・・これは・・・。」
男は呆然とその光景を眺めていた。一体、自分のいない間に、何があったのか・・・。
それは、異様とも思える光景だった。ゼロがいると思しき(埋もれているので見えない)場所に、わらわらと幹部達が群がっているのだ。
平素であれば、遠巻きにというか、一歩引いたところからゼロを見ているはずの幹部達が、あそこまで接近しているのは、どういったわけなのだろうか。まるで、自分の居場所をとられてしまったような気がして、男・・・ディートハルトはむっつりとそれを見つめ、何の話をしているのかと聞こえる位置まで移動する。
「ほら、今日、ゲットーを歩いていたら、珍しいものが売ってたんだ。・・・べっこう飴って言うんだよ。琥珀色できれいだろう。」
いつも以上に優しい声音で話す扇。ディートハルトは、ん?と首を傾げる。そこにいるのは本当にゼロか?彼がこんな声でゼロに話しかける事など終ぞ見た事はないし、聞いた事もない。
「そっちの書類で私達にできるのを頂戴。手分けした方が早いわ。」
「疲れてないか?そろそろ休憩を入れた方がいいんじゃないか?」
井上と南が気遣うように声をかけ、玉城が黙々と書類を分けている。
「今日は、枢木に何も言われなかったか?・・・カレンが守ってるから、そんなでもないと思うけど、いつも一緒にいられるわけじゃないもんな。」
杉山の言う事に理解が及ばない。なぜ、白兜・・・ランスロットのデヴァイサーの名前が出てきて、紅月カレンがいつも一緒などという話になっているのか。
何事にも、我慢の限界というものがある。情報担当でありながら、騎士団内の情報を掴み損ねている事に苛立ち、更には、いつの間にかゼロと急接近している幹部達に怒りを覚え、ディートハルトはとうとう声をかける事にする。
「皆さん!!これはどういうことですか!?」
一斉に幹部の視線がディートハルトに向けられ、いささかたじろいだものの、キッと眦(まなじり)を吊り上げ、幹部達を睨み据える。
「・・・どうって・・・あ、そうか。ディートハルトはあの時いなかったのか。」
「あ、そういえば。」
「どおりで静かだと。」
「すっかり忘れてたな。」
その前のも釈然としないものがあるが、最後の言葉は(特に)聞き捨てならなかった。ディートハルトはそれを発した玉城をきつく睨む。
「私は、今まで仕事と情報集めに奔走していたのです!それなのに、なんですか、その言い様は!!」
「ホントの事だろ~。お前、いる時はウルセーから、ああ、いるんだなって感じだけどよー。いない時は、なんか忘れてるなーって感じなんだよな。」
玉城はますます怒らせるような事を平然と言ってのけ、それから、にやり、と笑う。
「お前がいない間に、いろいろあったんだぜ。話題に乗り遅れたな~?情・報・担・当?」
「くっ!!」
玉城にからかわれ、怒り心頭のディートハルトは、こいつでは話にならないとばかりに踵を返し、ゼロ(がいるだろう)の方へ歩み寄る。
「ゼロ!そちらにいらっしゃるのですね!!・・・一体、これはどういったことなのでしょう!?」
「ディートハルト・・・。」
詰問に返ってきた声は、いつもよりトーンが高く聞こえる。しかも。
「生声・・・?」
首を傾げるディートハルトの目の前にいた幹部達が、さっと道を作るように割れる。ディートハルトが思考の淵から上がってくると、目の前にはゼロの格好をした美少年(←ここポイント)が立っていて、困ったように自身を見つめていた。
「・・・え・・・あ・・・?」
圧倒的に少ない情報量で、この事態を推測しようとするが、どうにも目の前の美貌が気になって気になって仕方がない。それに、どこかで見た気がするのだ。そうだ、本国のメディアにいた時に何度か・・・そこまで考えて、ハッとする。
「せ・・・せせせせせ・・・。」
“せ”を連呼するディートハルトに、ゼロもといルルーシュは言いたい事を理解した。曲がりなりにもマスコミ関係者のディートハルトだ。国民の注目度が最も高い皇妃の事は見聞きしていてもおかしくない。そして、その、最期の事も。
「~~~~~っ!閃光の!!!マリアンヌ!!!!!!!」
ビシッと指をさされ、大音量で叫ばれたその言葉に、ルルーシュは小さく突っ込んだ。
「・・・私は、母じゃない;」
ディートハルトを落ち着かせ、ルルーシュはようやく自身の事を説明した。
もともと、ブリタニア人で、マスコミ関係者だったディートハルトには、ブリタニア本国での事はほとんど知られていて、説明にはさほど時間を要さなかった。
「・・・そうだったのですか・・・。あの、マリアンヌ皇妃の御子息がゼロとは・・・皮肉なものですね。」
随分と落ち着いている様子のディートハルトに、皆が不審がる。
「なんだ、随分落ち着いているな。」
千葉が言えば、他の四聖剣もうんうん、と頷く。
「もっと、こう、なんか派手にリアクションをするかと思ったな。」
扇までそんな事を言い出すので、ディートハルトは自分は一体どの様に思われているのかと首を捻ってしまう。
「・・・あなた方は私をなんだと思っているのですか・・・。」
「「「「「「変態カオス。」」」」」」
声をそろえて言われ、ディートハルトはがっくりと肩を落とす。なんだ、その不名誉な認識は。自分は情報担当としてずっとゼロに忠実に仕えてきたというのに。
「・・・ともかくだ、これからも表に出る時はゼロとして仮面を被るが、ここ、幹部達の前だけでは仮面をとって過ごすつもりだ。皆に言われてしまっては、こう、拒否しづらいものがあってな。」
ルルーシュが言えば、ディートハルトはこくりと頷いた。
「もちろん、貴方の素性が表にバレるような事は致しません。・・・私も、マリアンヌ皇妃には興味を持っておりました。あの美貌、ナイトメアの操作技術、そして、何より、国民の支持を一身に受けていたあの皇妃様を。」
「そうか。・・・なあ、ディートハルト、お前は知っているだろうか・・・あの事件の真相を。」
ルルーシュが、ふと呟く。
「アリエスの悲劇、ですね。・・・あれは、テロだったと一斉にマスコミは報じましたが・・・説として高かったのは、皇位継承権争いの・・・ではないかと。そんな話は口が裂けても表で話せるものではありませんでしたが。」
「ああ、そうだろうな。・・・徹底して情報は隠蔽したハズだ。テロリストはその日の内に処分され、黒幕はいないとされ、そして、母の遺体すら・・・。」
どこへやられたかも知らされず、母の亡骸にすら会う事は許されなかった。
「・・・シュナイゼルとコーネリアが知っている。クロヴィスがそう言っていたが。」
そんな深い事情まで知らなかった幹部達も、ルルーシュの独白に聞き入っている。ディートハルトは、自身しか知らないだろう事に優越感を感じながらも、それを口にした。
「・・・コーネリアは当時、アリエスの離宮の警備担当者でしたね。それに、マリアンヌ皇妃に傾倒していた節がある。・・・シュナイゼルは当時から皇帝位に最も近いと噂されていましたが・・・深い関わりがあったのですか?アリエスの離宮に出入りしていたというのは聞いたことがありますが。」
「なぜか気に入られていてな。・・・良く、チェスの相手をさせられた。最初は戯れでクロヴィスが私に教えたのだが、私の方が上手になると、シュナイゼルに言いつけたらしくてな。」
「そ、それは・・・。」
子ども(当時、ルルーシュは8,9歳だろう)に負かされるクロヴィスを想像し、ディートハルトは、顔を引き攣らせる。
「・・・彼は、それなりにチェスが強かったように記憶していましたが。」
「・・・それなりに、な。どこか甘いんだ、あの人の打ち方は。・・・対して、シュナイゼルは子ども相手でも全く容赦がなかったな。私は兄上に一度だって勝った事が無い。」
皇室での話を聞くのは、藤堂達でさえ初めてだ。ルルーシュが渋っていたわけではないが、意識して話題にはしなかった。
だが、ディートハルトという同郷の、それも、皇室に詳しい者を前にして、口が軽くなっているらしい。
「容赦する余裕がなかったのでは?」
言えば、ルルーシュは苦笑する。
「そう、かもな。・・・最初に対戦した時、兄上は手加減したのか、あわや負けそうになってな。随分と慌てていたのを覚えている。あの人が慌てるところなど、あの時以来、終ぞ見た事が無い。」
あのシュナイゼルを負かす寸前まで追い込む子ども(=ルルーシュ)って・・・と幹部達が思わず天を仰ぐ。
「貴方の優秀さは・・・一部の者には有名でしたからね。ただ、いかんせん、貴方は・・・後ろ盾が少なかった。」
「そうだな。・・・庶民出の皇妃につこうとする貴族は皆無だったからな。母がテストパイロットとして昔から付き合いのあったアッシュフォードのみが後ろ盾として、共に在ってくれた。・・・母が亡くなった事で、爵位も取り上げられたというのに、日本まで来て私達を匿ってくれた。」
そうして築かれた箱庭は、すでに崩壊寸前だ。
「スザクのせいで・・・。」
ぼそり、と呟いたのは、カレン。あれほど言ったのに、奴はルルーシュの傍を離れようとしない。カレンに対しては今まで以上に警戒し、黒の騎士団へルルーシュが連れていかれないようにと放課後まで見張っている有様だ。
「こんなことなら、挑発するんじゃなかったわ。・・・ごめんなさい。ルルーシュ。」
「・・・いや、いいさ。カレンにあいつの意識が向いてて、こっちに来る被害が少ないのは助かってる。」
はぁ、と溜め息をつく様子はまるで一つの絵画のようだ。
「・・・ルルーシュ君、辛いのなら・・・。」
「いえ、それはまだ、性急過ぎるでしょう。」
藤堂が口にしようとした事に言葉を被せ、即座に却下する。
「ユーフェミアには、俺がゼロだとバレています。誰にも言わないとは言っていましたが“ルルーシュ”を消そうとしたら、どんな行動に出るか・・・。」
未だ藤堂にのみ敬語を使うルルーシュに、幹部達はどうにも違和感が拭えない。ゼロの仮面を被れば、また、違う態度をとるだろうという事は、短い付き合いでも良くわかっている。
「本当に、藤堂さんも桐原公も言ってたけど、ゼロって、徹底してるよね。」
ぼそり、と呟くのは朝比奈。それは、呆れているというより、感心している者の表情だ。
「・・・朝比奈だって、徹底して藤堂さんにだけ敬意を払ってるじゃないか。桐原公にすら軽い調子で話すし・・・。」
「そうかなぁ?・・・ああ、そうかも。・・・意識してないんだけどね。」
朝比奈は、あはは、と軽い調子で笑い、皆の呆れた視線を甘受する。
「まったく・・・自覚無しであれなのか?」
同じように呆れていたルルーシュが、疲れた声を出したので、皆が心配そうにその顔を見つめる。
「なぁ、ゼロ、本当に大丈夫かよ。・・・俺様が枢木の奴、ボコりに行ってやろうか?」
玉城が心配そうにルルーシュを見やる。もしかしたら、事情を話すことで一番態度が変わったのはこいつかもしれないと思いつつ、ルルーシュは軽く首を振る。
「玉城の気持ちは嬉しいけどな。・・・学園で問題を起こすわけにはいかない。・・・今まで守ってきてくれたアッシュフォードに迷惑をかけたくないんだ。」
「そうか・・・じゃあ、やっぱり、何か出来るとしたら、戦場でって事になるんだよなぁ?」
「玉城には無理だな。あんまりナイトメアの操作はうまくないし。」
杉山が言えば、確かに、と南も頷く。
「うるせぇ!・・・とにかく、俺はやるぞ!!枢木の奴をぎゃふんと言わせてやる。」
「玉城にしては良い覚悟ね。私も、遠慮せず白兜をぶっ潰してやるんだから!」
2人の言葉に、幹部達もうんうん、と頷く。
「・・・なんだか、随分と甘やかされているような気がするんだが・・・。」
気のせいじゃないよな、とディートハルトにふると、情報担当は珍しくも苦笑した。
「・・・貴方の事情を知ってしまえば、こうなるのも当然かと。・・・もともとお人良しな連中ばかりですからね。」
それもそうかと思わず納得してしまい、フッと溜め息をつく。
「昔話につき合わせて悪かったな、ディートハルト。」
「いえ。貴方さえ宜しいのなら、いつでもお相手いたしますよ。」
にこり、と互いに笑みを交わす瞬間を見とがめたカレンがバッとルルーシュとディートハルトの間に割り込む。
「ちょっと!何、さりげなく親密になってるのよ!!」
「プライベートでは貴女が独占してるのでしょう!?なら、これくらい良いではありませんか!!」
「プライベートなんてほとんどないわよッ!これでも譲歩してるの!!騎士団内で独占は禁止よ!!」
「独占するとは言ってないでしょう!!昔話に付き合うと!!」
「信用ならん!」
「そうだっ!・・・って、えっ?藤堂さん!?」
脇から飛んだ声にすかさず同意したカレンだが、その声の主に、ギョッとして振り返る。
「ディートハルト、お前がルルーシュ君と2人きりになるのは禁止だ。」
「別に如何こうしようなどと考えてはおりません、なぜ禁止なのです。」
「・・・ルルーシュ君の事は、騎士団幹部の皆が知りたいし、甘やかしたいからだ!」
「そうだ!俺達だって、ゼロの事が知りたい!!」
「お前だけずるいぞ!!」
ディートハルトの周りで幹部達がワイワイと騒ぎ出す。
どんどん藤堂のイメージが壊れていくなぁ、とのんびりと考えながら、それを眺め、ルルーシュは現実逃避をしていた。
― こんなんで、ブリタニアに勝てるのか?
「勝てるだろう。・・・こんなんでも。」
心の中を読まれて、ビクッと肩を震わせる。
「C.C.・・・いきなり現れるな。そして、心の中を読むな。」
「いや、いきなりじゃないぞ。それに、言葉に出ていたから、心を読んだわけじゃない。・・・さっきから見ていたが、随分と面白い事になってるな。まあ、こんなんだが、団結力は格段に上がっているはずだぞ。」
「それは・・・まあ、認めるが。」
「良いじゃないか、存分に甘やかしてもらえ。お前は1人で頑張り過ぎなんだ。」
「そうだぞ。」
C.C.に同意したのは、ワイワイと幹部達が言い合っている場所から抜けてきた卜部だ。
「お前はまだ、大人に庇護されるべき年齢なんだ。・・・確かに、司令官として表立ってもらわなきゃならない事もたくさんあるが、それでも、俺達にでもできる仕事はいくらでも回してもらって構わないからな。」
「・・・というか、甘やかされるって・・・どう反応したら良いのか、わからない。」
心底困ったようにルルーシュが言うので、卜部はぽかんとする。
「・・・マリアンヌ皇妃は、甘やかしてくれなかったのか?」
「甘やかした、とは言わないだろうな。・・・確かに、優しかったし、物腰も柔らかだが、躾はしっかりされた覚えがある。あそこの暮らしはそれほど甘やかなものでは無い。それに母とは9つまでしか一緒にいられなかったし、それ以降は、ナナリーと2人で生きていくのに必死で・・・。」
卜部は納得する。
「そりゃ、しっかりもするわな。・・・というか、同じような場所で暮らしてんのに、どうして、こうも違うかね。」
「・・・ユフィ、か?」
「そうそう。まるで砂糖菓子が歩いてるみたいじゃないか。」
「あの子は、コーネリア姉上に皇室内の汚い部分から一切シャットアウトされてきたからな。お飾りと言われても仕方のない事だ。」
「はぁ~、あの、コーネリアがねぇ。」
「こう言ってはなんだが、あの人のシスコンぶりは、俺よりもスゴイ。」
「ホント!!?」
バッと反応したのはカレンだった。隣では“卜部さんいつの間に~ずるーい”と朝比奈が叫んでいる。
「ルルーシュの、ナナリーちゃんへのシスコンッぷりよりスゴイなんて!!!」
信じられない!と叫ぶ自分の騎士兼恋人を見つめ、ルルーシュはがっくりと肩を落とす。
「・・・カレン、俺達、一応・・・主従で恋人だよな・・・?」
弱弱しいその声に、思わずきゅん、と胸をときめかせたが、カレンは慌ててルルーシュを慰めに入った。
「べ、別に貶す意味で言ったんじゃないのよ!?私は、ナナリーちゃんを溺愛してるルルーシュごと好きなんだから。ね?」
「・・・カレン。」
ちょっぴり感動してしまったルルーシュだ。ナナリーとペアで守り、好きでいてくれるというカレンの言葉は、ルルーシュにとって、ストレートど真ん中にきている。
「大好きよ!ルルーシュ。」
「俺も好きだぞ。」
「はいは~い!俺も~!!」
「私も好きですよ!」
俺も、私も、と声を上げる幹部達に、ルルーシュは目頭が熱くなってきて、フイ、と顔をそらした。
「・・・俺も・・・お前達の事は、好き、だぞ!」
顔が真っ赤になっているのを見て、幹部達がデレっと表情を緩め、C.C.が生暖かい視線で見つめる。
― ルルーシュは随分と愛されているぞ、マリアンヌ。
幸せそうに微笑むルルーシュを眺め、ぼそり、と呟いたC.C.の言葉を聞いたものは、誰もいなかった。
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・カレルル前提ルル総受け
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「・・・これは・・・。」
男は呆然とその光景を眺めていた。一体、自分のいない間に、何があったのか・・・。
それは、異様とも思える光景だった。ゼロがいると思しき(埋もれているので見えない)場所に、わらわらと幹部達が群がっているのだ。
平素であれば、遠巻きにというか、一歩引いたところからゼロを見ているはずの幹部達が、あそこまで接近しているのは、どういったわけなのだろうか。まるで、自分の居場所をとられてしまったような気がして、男・・・ディートハルトはむっつりとそれを見つめ、何の話をしているのかと聞こえる位置まで移動する。
「ほら、今日、ゲットーを歩いていたら、珍しいものが売ってたんだ。・・・べっこう飴って言うんだよ。琥珀色できれいだろう。」
いつも以上に優しい声音で話す扇。ディートハルトは、ん?と首を傾げる。そこにいるのは本当にゼロか?彼がこんな声でゼロに話しかける事など終ぞ見た事はないし、聞いた事もない。
「そっちの書類で私達にできるのを頂戴。手分けした方が早いわ。」
「疲れてないか?そろそろ休憩を入れた方がいいんじゃないか?」
井上と南が気遣うように声をかけ、玉城が黙々と書類を分けている。
「今日は、枢木に何も言われなかったか?・・・カレンが守ってるから、そんなでもないと思うけど、いつも一緒にいられるわけじゃないもんな。」
杉山の言う事に理解が及ばない。なぜ、白兜・・・ランスロットのデヴァイサーの名前が出てきて、紅月カレンがいつも一緒などという話になっているのか。
何事にも、我慢の限界というものがある。情報担当でありながら、騎士団内の情報を掴み損ねている事に苛立ち、更には、いつの間にかゼロと急接近している幹部達に怒りを覚え、ディートハルトはとうとう声をかける事にする。
「皆さん!!これはどういうことですか!?」
一斉に幹部の視線がディートハルトに向けられ、いささかたじろいだものの、キッと眦(まなじり)を吊り上げ、幹部達を睨み据える。
「・・・どうって・・・あ、そうか。ディートハルトはあの時いなかったのか。」
「あ、そういえば。」
「どおりで静かだと。」
「すっかり忘れてたな。」
その前のも釈然としないものがあるが、最後の言葉は(特に)聞き捨てならなかった。ディートハルトはそれを発した玉城をきつく睨む。
「私は、今まで仕事と情報集めに奔走していたのです!それなのに、なんですか、その言い様は!!」
「ホントの事だろ~。お前、いる時はウルセーから、ああ、いるんだなって感じだけどよー。いない時は、なんか忘れてるなーって感じなんだよな。」
玉城はますます怒らせるような事を平然と言ってのけ、それから、にやり、と笑う。
「お前がいない間に、いろいろあったんだぜ。話題に乗り遅れたな~?情・報・担・当?」
「くっ!!」
玉城にからかわれ、怒り心頭のディートハルトは、こいつでは話にならないとばかりに踵を返し、ゼロ(がいるだろう)の方へ歩み寄る。
「ゼロ!そちらにいらっしゃるのですね!!・・・一体、これはどういったことなのでしょう!?」
「ディートハルト・・・。」
詰問に返ってきた声は、いつもよりトーンが高く聞こえる。しかも。
「生声・・・?」
首を傾げるディートハルトの目の前にいた幹部達が、さっと道を作るように割れる。ディートハルトが思考の淵から上がってくると、目の前にはゼロの格好をした美少年(←ここポイント)が立っていて、困ったように自身を見つめていた。
「・・・え・・・あ・・・?」
圧倒的に少ない情報量で、この事態を推測しようとするが、どうにも目の前の美貌が気になって気になって仕方がない。それに、どこかで見た気がするのだ。そうだ、本国のメディアにいた時に何度か・・・そこまで考えて、ハッとする。
「せ・・・せせせせせ・・・。」
“せ”を連呼するディートハルトに、ゼロもといルルーシュは言いたい事を理解した。曲がりなりにもマスコミ関係者のディートハルトだ。国民の注目度が最も高い皇妃の事は見聞きしていてもおかしくない。そして、その、最期の事も。
「~~~~~っ!閃光の!!!マリアンヌ!!!!!!!」
ビシッと指をさされ、大音量で叫ばれたその言葉に、ルルーシュは小さく突っ込んだ。
「・・・私は、母じゃない;」
ディートハルトを落ち着かせ、ルルーシュはようやく自身の事を説明した。
もともと、ブリタニア人で、マスコミ関係者だったディートハルトには、ブリタニア本国での事はほとんど知られていて、説明にはさほど時間を要さなかった。
「・・・そうだったのですか・・・。あの、マリアンヌ皇妃の御子息がゼロとは・・・皮肉なものですね。」
随分と落ち着いている様子のディートハルトに、皆が不審がる。
「なんだ、随分落ち着いているな。」
千葉が言えば、他の四聖剣もうんうん、と頷く。
「もっと、こう、なんか派手にリアクションをするかと思ったな。」
扇までそんな事を言い出すので、ディートハルトは自分は一体どの様に思われているのかと首を捻ってしまう。
「・・・あなた方は私をなんだと思っているのですか・・・。」
「「「「「「変態カオス。」」」」」」
声をそろえて言われ、ディートハルトはがっくりと肩を落とす。なんだ、その不名誉な認識は。自分は情報担当としてずっとゼロに忠実に仕えてきたというのに。
「・・・ともかくだ、これからも表に出る時はゼロとして仮面を被るが、ここ、幹部達の前だけでは仮面をとって過ごすつもりだ。皆に言われてしまっては、こう、拒否しづらいものがあってな。」
ルルーシュが言えば、ディートハルトはこくりと頷いた。
「もちろん、貴方の素性が表にバレるような事は致しません。・・・私も、マリアンヌ皇妃には興味を持っておりました。あの美貌、ナイトメアの操作技術、そして、何より、国民の支持を一身に受けていたあの皇妃様を。」
「そうか。・・・なあ、ディートハルト、お前は知っているだろうか・・・あの事件の真相を。」
ルルーシュが、ふと呟く。
「アリエスの悲劇、ですね。・・・あれは、テロだったと一斉にマスコミは報じましたが・・・説として高かったのは、皇位継承権争いの・・・ではないかと。そんな話は口が裂けても表で話せるものではありませんでしたが。」
「ああ、そうだろうな。・・・徹底して情報は隠蔽したハズだ。テロリストはその日の内に処分され、黒幕はいないとされ、そして、母の遺体すら・・・。」
どこへやられたかも知らされず、母の亡骸にすら会う事は許されなかった。
「・・・シュナイゼルとコーネリアが知っている。クロヴィスがそう言っていたが。」
そんな深い事情まで知らなかった幹部達も、ルルーシュの独白に聞き入っている。ディートハルトは、自身しか知らないだろう事に優越感を感じながらも、それを口にした。
「・・・コーネリアは当時、アリエスの離宮の警備担当者でしたね。それに、マリアンヌ皇妃に傾倒していた節がある。・・・シュナイゼルは当時から皇帝位に最も近いと噂されていましたが・・・深い関わりがあったのですか?アリエスの離宮に出入りしていたというのは聞いたことがありますが。」
「なぜか気に入られていてな。・・・良く、チェスの相手をさせられた。最初は戯れでクロヴィスが私に教えたのだが、私の方が上手になると、シュナイゼルに言いつけたらしくてな。」
「そ、それは・・・。」
子ども(当時、ルルーシュは8,9歳だろう)に負かされるクロヴィスを想像し、ディートハルトは、顔を引き攣らせる。
「・・・彼は、それなりにチェスが強かったように記憶していましたが。」
「・・・それなりに、な。どこか甘いんだ、あの人の打ち方は。・・・対して、シュナイゼルは子ども相手でも全く容赦がなかったな。私は兄上に一度だって勝った事が無い。」
皇室での話を聞くのは、藤堂達でさえ初めてだ。ルルーシュが渋っていたわけではないが、意識して話題にはしなかった。
だが、ディートハルトという同郷の、それも、皇室に詳しい者を前にして、口が軽くなっているらしい。
「容赦する余裕がなかったのでは?」
言えば、ルルーシュは苦笑する。
「そう、かもな。・・・最初に対戦した時、兄上は手加減したのか、あわや負けそうになってな。随分と慌てていたのを覚えている。あの人が慌てるところなど、あの時以来、終ぞ見た事が無い。」
あのシュナイゼルを負かす寸前まで追い込む子ども(=ルルーシュ)って・・・と幹部達が思わず天を仰ぐ。
「貴方の優秀さは・・・一部の者には有名でしたからね。ただ、いかんせん、貴方は・・・後ろ盾が少なかった。」
「そうだな。・・・庶民出の皇妃につこうとする貴族は皆無だったからな。母がテストパイロットとして昔から付き合いのあったアッシュフォードのみが後ろ盾として、共に在ってくれた。・・・母が亡くなった事で、爵位も取り上げられたというのに、日本まで来て私達を匿ってくれた。」
そうして築かれた箱庭は、すでに崩壊寸前だ。
「スザクのせいで・・・。」
ぼそり、と呟いたのは、カレン。あれほど言ったのに、奴はルルーシュの傍を離れようとしない。カレンに対しては今まで以上に警戒し、黒の騎士団へルルーシュが連れていかれないようにと放課後まで見張っている有様だ。
「こんなことなら、挑発するんじゃなかったわ。・・・ごめんなさい。ルルーシュ。」
「・・・いや、いいさ。カレンにあいつの意識が向いてて、こっちに来る被害が少ないのは助かってる。」
はぁ、と溜め息をつく様子はまるで一つの絵画のようだ。
「・・・ルルーシュ君、辛いのなら・・・。」
「いえ、それはまだ、性急過ぎるでしょう。」
藤堂が口にしようとした事に言葉を被せ、即座に却下する。
「ユーフェミアには、俺がゼロだとバレています。誰にも言わないとは言っていましたが“ルルーシュ”を消そうとしたら、どんな行動に出るか・・・。」
未だ藤堂にのみ敬語を使うルルーシュに、幹部達はどうにも違和感が拭えない。ゼロの仮面を被れば、また、違う態度をとるだろうという事は、短い付き合いでも良くわかっている。
「本当に、藤堂さんも桐原公も言ってたけど、ゼロって、徹底してるよね。」
ぼそり、と呟くのは朝比奈。それは、呆れているというより、感心している者の表情だ。
「・・・朝比奈だって、徹底して藤堂さんにだけ敬意を払ってるじゃないか。桐原公にすら軽い調子で話すし・・・。」
「そうかなぁ?・・・ああ、そうかも。・・・意識してないんだけどね。」
朝比奈は、あはは、と軽い調子で笑い、皆の呆れた視線を甘受する。
「まったく・・・自覚無しであれなのか?」
同じように呆れていたルルーシュが、疲れた声を出したので、皆が心配そうにその顔を見つめる。
「なぁ、ゼロ、本当に大丈夫かよ。・・・俺様が枢木の奴、ボコりに行ってやろうか?」
玉城が心配そうにルルーシュを見やる。もしかしたら、事情を話すことで一番態度が変わったのはこいつかもしれないと思いつつ、ルルーシュは軽く首を振る。
「玉城の気持ちは嬉しいけどな。・・・学園で問題を起こすわけにはいかない。・・・今まで守ってきてくれたアッシュフォードに迷惑をかけたくないんだ。」
「そうか・・・じゃあ、やっぱり、何か出来るとしたら、戦場でって事になるんだよなぁ?」
「玉城には無理だな。あんまりナイトメアの操作はうまくないし。」
杉山が言えば、確かに、と南も頷く。
「うるせぇ!・・・とにかく、俺はやるぞ!!枢木の奴をぎゃふんと言わせてやる。」
「玉城にしては良い覚悟ね。私も、遠慮せず白兜をぶっ潰してやるんだから!」
2人の言葉に、幹部達もうんうん、と頷く。
「・・・なんだか、随分と甘やかされているような気がするんだが・・・。」
気のせいじゃないよな、とディートハルトにふると、情報担当は珍しくも苦笑した。
「・・・貴方の事情を知ってしまえば、こうなるのも当然かと。・・・もともとお人良しな連中ばかりですからね。」
それもそうかと思わず納得してしまい、フッと溜め息をつく。
「昔話につき合わせて悪かったな、ディートハルト。」
「いえ。貴方さえ宜しいのなら、いつでもお相手いたしますよ。」
にこり、と互いに笑みを交わす瞬間を見とがめたカレンがバッとルルーシュとディートハルトの間に割り込む。
「ちょっと!何、さりげなく親密になってるのよ!!」
「プライベートでは貴女が独占してるのでしょう!?なら、これくらい良いではありませんか!!」
「プライベートなんてほとんどないわよッ!これでも譲歩してるの!!騎士団内で独占は禁止よ!!」
「独占するとは言ってないでしょう!!昔話に付き合うと!!」
「信用ならん!」
「そうだっ!・・・って、えっ?藤堂さん!?」
脇から飛んだ声にすかさず同意したカレンだが、その声の主に、ギョッとして振り返る。
「ディートハルト、お前がルルーシュ君と2人きりになるのは禁止だ。」
「別に如何こうしようなどと考えてはおりません、なぜ禁止なのです。」
「・・・ルルーシュ君の事は、騎士団幹部の皆が知りたいし、甘やかしたいからだ!」
「そうだ!俺達だって、ゼロの事が知りたい!!」
「お前だけずるいぞ!!」
ディートハルトの周りで幹部達がワイワイと騒ぎ出す。
どんどん藤堂のイメージが壊れていくなぁ、とのんびりと考えながら、それを眺め、ルルーシュは現実逃避をしていた。
― こんなんで、ブリタニアに勝てるのか?
「勝てるだろう。・・・こんなんでも。」
心の中を読まれて、ビクッと肩を震わせる。
「C.C.・・・いきなり現れるな。そして、心の中を読むな。」
「いや、いきなりじゃないぞ。それに、言葉に出ていたから、心を読んだわけじゃない。・・・さっきから見ていたが、随分と面白い事になってるな。まあ、こんなんだが、団結力は格段に上がっているはずだぞ。」
「それは・・・まあ、認めるが。」
「良いじゃないか、存分に甘やかしてもらえ。お前は1人で頑張り過ぎなんだ。」
「そうだぞ。」
C.C.に同意したのは、ワイワイと幹部達が言い合っている場所から抜けてきた卜部だ。
「お前はまだ、大人に庇護されるべき年齢なんだ。・・・確かに、司令官として表立ってもらわなきゃならない事もたくさんあるが、それでも、俺達にでもできる仕事はいくらでも回してもらって構わないからな。」
「・・・というか、甘やかされるって・・・どう反応したら良いのか、わからない。」
心底困ったようにルルーシュが言うので、卜部はぽかんとする。
「・・・マリアンヌ皇妃は、甘やかしてくれなかったのか?」
「甘やかした、とは言わないだろうな。・・・確かに、優しかったし、物腰も柔らかだが、躾はしっかりされた覚えがある。あそこの暮らしはそれほど甘やかなものでは無い。それに母とは9つまでしか一緒にいられなかったし、それ以降は、ナナリーと2人で生きていくのに必死で・・・。」
卜部は納得する。
「そりゃ、しっかりもするわな。・・・というか、同じような場所で暮らしてんのに、どうして、こうも違うかね。」
「・・・ユフィ、か?」
「そうそう。まるで砂糖菓子が歩いてるみたいじゃないか。」
「あの子は、コーネリア姉上に皇室内の汚い部分から一切シャットアウトされてきたからな。お飾りと言われても仕方のない事だ。」
「はぁ~、あの、コーネリアがねぇ。」
「こう言ってはなんだが、あの人のシスコンぶりは、俺よりもスゴイ。」
「ホント!!?」
バッと反応したのはカレンだった。隣では“卜部さんいつの間に~ずるーい”と朝比奈が叫んでいる。
「ルルーシュの、ナナリーちゃんへのシスコンッぷりよりスゴイなんて!!!」
信じられない!と叫ぶ自分の騎士兼恋人を見つめ、ルルーシュはがっくりと肩を落とす。
「・・・カレン、俺達、一応・・・主従で恋人だよな・・・?」
弱弱しいその声に、思わずきゅん、と胸をときめかせたが、カレンは慌ててルルーシュを慰めに入った。
「べ、別に貶す意味で言ったんじゃないのよ!?私は、ナナリーちゃんを溺愛してるルルーシュごと好きなんだから。ね?」
「・・・カレン。」
ちょっぴり感動してしまったルルーシュだ。ナナリーとペアで守り、好きでいてくれるというカレンの言葉は、ルルーシュにとって、ストレートど真ん中にきている。
「大好きよ!ルルーシュ。」
「俺も好きだぞ。」
「はいは~い!俺も~!!」
「私も好きですよ!」
俺も、私も、と声を上げる幹部達に、ルルーシュは目頭が熱くなってきて、フイ、と顔をそらした。
「・・・俺も・・・お前達の事は、好き、だぞ!」
顔が真っ赤になっているのを見て、幹部達がデレっと表情を緩め、C.C.が生暖かい視線で見つめる。
― ルルーシュは随分と愛されているぞ、マリアンヌ。
幸せそうに微笑むルルーシュを眺め、ぼそり、と呟いたC.C.の言葉を聞いたものは、誰もいなかった。
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